偽陽性、偽陰性と検査の精度 中編  ~ベイズ推定~

2020/5/4

こんにちは、東京医科歯科大学の やまさん です。

この記事は全部で前・中・後編あるうちの中編です。前編の記事をまだ見てないよ!という人はぜひ見てくださいね!

前編の記事のリンクはこちら! https://uni-treat.com/topic/medical/gi-insei/

前編の内容を大雑把にまとめると以下の3点になります。

  1. 検査は100%正確であるというわけではなく、偽陽性と偽陰性がどうしても一定数起きてしまうということ。
  2. 検査の精度は感度と特異度という2つの要素によって決まるということ。
  3. 感度と特異度について考えることで「陽性と出たときに本当にその病気である確率」を求めるという考え方をベイズ推定といい、一見難しいようでただの条件付き確率であるということ。

少しでもあれ?と思ったら前回の記事を見返してきてください!

それでは、実際の検査のデータを用いてベイズ推定を行ってみましょう!

本当は新型コロナウイルスの検査のデータが欲しかったのですが、残念ながら新型コロナウイルスに関しては正確なデータがない上、ある程度対象者を他の検査や診断によって絞り込んでから検査するため、もう少し無作為な人が対象の検査を探してみました。そして出てきたのが2020年1月に開始されたN-NOSEという尿を用いた早期がん検査です。N-NOSEの公式ホームページによると、2019年9月時点では感度・特異度はともに約85%であると書いてあります(出典1)。また、がんの有病率に関しては国立がん研究センターの将来予測によると2.7%ほどであると考えられます(出典2)。これらの情報から、一緒にベイズ推定をしていきましょう!

*現状、N-NOSEは全てのがんに対して検査を行ってはいないようなので実際の罹患率はもう少し低くなると思われますが、5大がんを始めとした15種類に対応していることから今回は2.7%というデータを用いることにします。

仮に100000人に対してこの検査したとします。この時、がんの有病率は2.7%なので、2700人ががん有病者ということになりますね。逆に、97300人はがん有病者ではありません。

感度は85%なので、有病者2700人のうち2295人は「がんのリスクあり」と判定され、405人は「がんのリスクは低い」と判定されます。つまり、405人には偽陰性の判定が出てしまうのです。

また、特異度も85%なので、残りの97300人のうち14595人は「がんのリスクあり」と判定され、82705人は「がんのリスクは低い」と判定されます。つまり14595人には偽陽性の判定が出てしまうのです。

これをまとめると下の図のようになります。

「がんのリスクあり」と判定された16890人のうち実際の有病者は2295人、これは約13.6%となります。よって、ベイズ推定の結果

「『がんのリスクあり』と判定されたときあなたが実際に有病者である確率は13.6%である」

ということがわかりました。

感度・特異度はともに85%なので、陽性だと判定されたら有病率は85%…と考えてしまうのも無理はありませんし、自分も実際に計算するまではそう思ってしまっていました。衝撃ですね…!

ついでに、偽陽性率と偽陰性率を計算していきましょう。

偽陽性は16890人中14595人なので偽陽性率は約86.4%

偽陰性は83110人中405人なので偽陰性率は約0.5%となります。

ここで、話を最初の

「なぜ新型コロナウイルス感染症(以降、COVID-19)で退院するときには2回連続で陰性が出ないと退院できないか」

に戻しましょう。

ベイズ推定を行うには、感度・特異度・検査対象の有病率という3つの情報が必要です。前者2つはともかく、最後の情報は新型コロナウイルスに関しては推定も困難であるため新型コロナウイルスの検査においてベイズ推定を導入して現実的な数値を導き出すのは難しいでしょう。ただ、これまでの計算からわかることは感度・特異度が100%でない限り偽陽性・偽陰性は存在するということです。またCOVID-19の感染を防止するためには、感染者の隔離だけではなく、ウイルスが体内に残存する状態で退院させないことも重要なのは明白でしょう。

そこで、後編では今回のベイズ推定を行った検査を2回行った場合について考えていきたいと思います!検査を2回行うことでどれくらい偽陽性率・偽陰性率が減るか、よかったら予想してから後編を読んでみてください!

それでは後編も、お楽しみに♪

後編のリンクはこちら! https://uni-treat.com/topic/medical/gi-insei3/

出典(閲覧日は全て2020年4月25日)

出典1:N-NOSE公式ホームページ http://xn--icktbzci4u.com/

出典2:平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)日本人におけるがんの原因・寄与度:最新推計と将来予測 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html

 

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