偽陽性、偽陰性と検査の精度 後編  ~検査を2回行うと~

2020/5/5

こんにちは、東京医科歯科大学の やまさん です。

この記事は全部で前・中・後編あるうちの後編です。前・中編の記事をまだ見てないよ!という人はぜひ見てくださいね!

前編のリンクはこちら! https://uni-treat.com/topic/medical/gi-insei/

中編のリンクはこちら! https://uni-treat.com/topic/medical/gi-insei2/

中編の内容を大雑把にまとめると以下の3点になります。

  1. 感度・特異度85%、有病率7%の早期がん検査でベイズ推定を行うと「『がんのリスクあり』と判定されたときあなたががんの有病者である確率はわずか13.6%」
  2. 1.でのベイズ推定に基づくと偽陽性率は約4%、偽陰性率は約0.5%
  3. 情報不足により新型コロナウイルスでベイズ推定は行えないが偽陰性が出るのは確か

少しでもあれ?と思ったら前回の記事を見返してきてください!

さて、中編では感度・特異度85%、有病率2.7%の条件下で早期がん検査を1回行ったときのベイズ推定を行いましたが、今回は検査を2回行ったときのベイズ推定を考えていきましょう。この記事の前半では、2回検査を行ったときの偽陽性率の減りを見るために1回目の検査で「がんのリスクあり」と判定された人に対して2回目の検査を実施していくと仮定します。また、この記事の後半では2回検査を行ったときの偽陰性率の減りを見るために1回目の検査で「がんのリスクは低い」と判定された人に対して2回目の検査を実施していくと仮定します。

参考までに、(中編にありますが)1回目の検査の結果に基づくベイズ推定は以下の通りになりました。

1回目の検査の偽陽性率:約86.4%

1回目の検査の偽陰性率:約0.5%

まずは、2回検査を行ったときの偽陽性率の減りを見ていきましょう。1回目の検査で「がんのリスクあり」と判定された人に対して2回目の検査を実施するため、この検査の対象者は16890人になります。

この16890人の中で有病者は2295人で、14595人は有病者ではありません。感度は85%であるため、有病者である2295人のうち2回目で「がんのリスクあり」と再び判定されるのは1950.75人です。逆に、2回目で「がんのリスクは低い」と判定されてしまう人は344.25人です。特異度も85%であるため、有病者ではない14595人のうち2回目で「がんのリスクあり」と判定されてしまうのは2189.25人です。逆に、2回目で「がんのリスクは低い」と再び判定される人は12405.75人です。

これをまとめると下の図のようになります。

2回連続で「がんのリスクあり」と判定された4140人のうち、実際の有病者は1950.75人、これは約47.1%です。裏を返すと2回検査した時の偽陽性率は約52.9%となります。半数越えとはいえ、偽陽性率は下がりました。ただ、344.25人が2回目の検査を行ったことによって偽陰性となり見落としが生じてしまったことも興味深い点だと思います。

次に、2回検査を行ったときの偽陰性率の減りを見ていきましょう。1回目の検査で「がんのリスクは低い」と判定された人に対して2回目の検査を実施するため、この検査の対象者は83110人になります。

この83110人の中で有病者は405人で、82705人は有病者ではありません。感度は85%であるため、有病者である405人のうち2回目で「がんのリスクあり」と判定されるのは344.25人です。逆に2回目で「がんのリスクは低い」と再び判定されてしまう人は60.75人です。特異度も85%であるため、有病者ではない82705人のうち2回目で「がんのリスクあり」と判定されてしまうのは12405.75人です。逆に2回目で「がんのリスクは低い」と再び判定される人は70299.25人です。

これをまとめると下の図のようになります。

2回連続で「がんのリスクは低い」と判定された70360人のうち、実際は有病者である人は60.75人、これは約0.09%となります。つまり、2回検査した時の偽陰性率は約0.09%なとります。一回目の検査での偽陰性率は約0.5%だったため、さらに大幅に偽陰性率が減少したことがわかります。

ここで改めて話を最初に戻します。

「なぜCOVID-19で退院するときには2回連続で陰性が出ないと退院できないのでしょうか?」

新型コロナウイルスの感染者による新たな拡散を食い止めるためには感染者をしっかりと隔離することだけではなく、ウイルスが体内に残存する状態で退院させないことも求められてきます。もちろん、中編でもお話しした通り感度・特異度・検査対象の有病率は異なるため今回のベイズ推定を直接用いることはできません。しかし、これまでのベイズ推定で、2回検査することにより偽陰性率を相当落とすことができることがわかったかと思います。COVID-19で退院するときには2回連続で陰性が出ないと退院できない理由は、偽陰性率を極限まで減らすためだったのです!!

これにて前・中・後編にわたるこの記事は終わりになります。少し数字や計算が面倒だったりしたとは思いますが、何となく「なぜCOVID-19で退院するときには2回連続で陰性が出ないと退院できないか」の疑問が少しでも解消されたら幸いです。ほかにもいろいろな記事がありますので、よかったら見てくださいね!

 

面白かったらTwitterのフォローお願いします!

1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。