ニートと西暦1999年

ニートと聞いて、無職なのに職を探そうとしない人々「NEET」のことを連想される方は多いだろう。NEETは2000年代前半に世間で浸透した用語であり、国内において「NEET」の存在は深刻な社会問題となっている。

「NEET」の起源

この用語は、1999年7月に英国の政府機関Social Exclusion Task Forceが調査報告書『Bridging the Gap』を発表し、その中の「not in education, employment or training」という部分からイニシャルをとってNEETと称したことに由来する。

「NIIT」の起源

同じ年の同じ月に週刊少年ジャンプという雑誌で連載が始まった漫画作品がある。その名を『Zombiepowder.』という。この漫画内の世界での通貨はなんとニートであった。この漫画の作者、久保帯人は洋楽好きであり、作中でも海外のミュージシャンに影響されたと思われる箇所が多々見られる。作中では英語等の外国語が頻出するが、台詞文は当然、日本語が中心で、通貨「ニート」の英語表記は原作では明かされていない。調べたところ、英訳版では通貨「ニート」はNIITと訳されているようだ。私は第一話で作中の通貨がニートであると知り、微かな衝撃を覚えた。1999年7月当時、日本ではNEETという用語はまだ定着しておらず、久保帯人がNEETという用語を知っていた上で作中での通貨の名称を「ニート」とした可能性は低いだろう。それでもNEETという用語がこれほどまでに日常会話の中で溶け込んでいる現代の読者からすれば、通貨「ニート」を作中の文章で見つけてNEETを連想してしまうのは仕方のないことであるように思われる。偶然ではあろうが、読者に対して、久保帯人は「賃金と深く結びついた概念であるはずの通貨」の名前に「働かずに暮らしており、賃金と最も縁のないであろう人々」の名称を用いたように感じさせたといえる。久保帯人のネーミングセンスの高さはネット等で広く知られているが、彼が自身の連載デビュー作で通貨の名前を「ニート」と名付けたというのは注目に値すべきことかもしれない。

この漫画は半年で打ち切りとなってしまい、次回作の『BLEACH』に比べて世間での知名度は高くないが、シリアスとギャグのバランスの良さ等、秀逸な点が多く、本作の魅力をまだご存じでない方は是非、一読してみてはいかがだろうか。

「NEAT」の起源

この漫画の連載が始まった年に、さらに別のニートという用語が提唱された。或る論文(Levine et al., 1999)で、NEAT(nonexercise activity thermogenesis)という概念が提示されたのだ。NEATは非運動性活動熱産生の略語であり、1999年にこの論文が発表されて以来、エネルギー代謝関連の学会等で注目されている。NEATは簡潔にいうと「ウォーキングやランニングやスポーツ以外での日常生活におけるエネルギー消費」のことを指す。具体的には通勤・通学時の移動や家事をこなす際に消費されるエネルギー量などが挙げられる。NEATの数値を高くすることは肥満の防止に役立つとされており、体重計に乗るのが怖い読者の方はNEATを上げるべく努力されるべきだろう。

三つの「ニート」

以上で三つのニート(NEET,NIIT,NEAT)を紹介したが、成人を迎えた今年の秋、「自分が誕生した1999年に同じ発音の言葉が三つも誕生していたという事実」に気付き、感慨深い気分になった。今回、この随筆を書いていて、「社会問題と少年漫画と代謝学」という一見特に関連性がなさそうな分野であっても、ニートという外来語のように偶然の一致を見せるものがあるのだなあと感じた。

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