「弁慶の立ち往生」を医学的に解説してみた!

2020/5/12

こんにちは。ライターの木村です。

突然ですが、皆さんは「弁慶の立ち往生」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?源義経のかつての敵であり、のちに家来となった武蔵坊弁慶の最期は、無数の矢を受けて立ったまま亡くなるというものであったと言われています。一見ありえないように感じますが、「立ったまま死ぬ」というのは起こりうる現象なのです。これについて医学的な観点から解説していこうと思います。

死んだ時の状況と死後硬直がカギだった!?

源義経の家来だった弁慶は、義経が兄の源頼朝に追い詰められた時に殉死します。頼朝は大軍を率いて義経たちがいた衣川に攻め入ったのです。弁慶はめちゃくちゃ強かったらしいのですが、やはり数には勝てなかったようで、奮戦するも前述のように矢を大量に受けて戦死してしまいます。ここで重要なのは「弁慶は死亡時、かなり激しく動いていた」という事です。あとで詳しく説明させていただきます。

次に、死後硬直について解説します。一般に人が亡くなると死後硬直という現象が起こり、筋肉が硬くなります。人が死ぬと、心臓や循環器は停止するので酸素が体内を巡らなくなります。当然筋肉にも酸素は行き渡りません。すると酸素を消費して行われる「好気的」な呼吸というものはできなくなります。一方で、酸素がなくても「嫌気的」な呼吸というものはできるので継続して行われます(注:ここでの呼吸は通常私たちがしている「息を吸って、吐く」いう呼吸とは異なるものです)。嫌気的呼吸では体内のATP(アデノシン三リン酸)をエネルギー源として消費し、乳酸が生産されます。つまり、嫌気的呼吸が進むと筋肉中のATPは減少します。ATP濃度が一定まで減少すると筋肉繊維の原材料であるミオシンとアクチンが結合してアクトミオシンという物質になります。このアクトミオシンこそが死後硬直を引き起こす直接の原因物質です。

まとめると、死亡する→嫌気的呼吸によりATPが消費される→ATPが一定量なくなる→筋肉繊維が変質して硬くなる、というのが死後硬直のプロセスとなっています。

では、いよいよ弁慶の立ち往生について解説したいと思います。先述したように死亡時、弁慶は戦闘中でありかなり激しい運動をしていたと推測されます。短距離走などにも言えることですが、激しい運動中は好気的呼吸よりも嫌気的呼吸が優先されます。つまり、普段よりもATPがより多く消費されているのです。だんだんと答えが見えてきたのではないしょうか。

筋肉中のATP量が減少することで筋肉は硬化するので、死亡時のATP量が少ないほど死後硬直までの時間は短くなります。つまり、激しい運動の直後に死亡すると死後硬直は通常よりも早く開始するということです。魚や牛、豚なども死後硬直をしますが捕まえたり締める直前に暴れたりしている個体は同様の理由で死後硬直が早く起こります。

さて、ここまでの話をまとめると、弁慶は激しい戦闘の最中に死んだために死後硬直が素早く開始され、絶命して倒れる前に筋肉が硬直した、というのが「弁慶の立ち往生」の妥当な理由だと思います。

通常、死後硬直は死後2-3時間で始まると言われています。弁慶は倒れるよりも早く死後硬直が始まったのでめちゃくちゃ激しく動いていたと考えられます。

解説は以上となります。これらのことを踏まえて『キングダム』を読み返してみましたがまた違った面白さがありました。録鳴未とかめちゃくちゃ早く死後硬直が起こりそうですね()

読んでいただきありがとうございました。それではまた。

 

面白かったらTwitterのフォローお願いします!